第一部|沈黙の扉
月の光が 細く差す部屋で
ひとりの人が 窓を見つめていた
声をかけても
返ってくるのは 静かな息だけ
カピちゃんは
言葉を探すことをやめて
少し離れた椅子に座った
急がせないこと
決めつけないこと
沈黙にも 居場所をつくること
長い夜の終わりに
伏せられていた目が ほんの少し上がる
そのまなざしを受けとめたとき
閉ざされていた扉の縁に
淡い金色の光が ひとすじ灯った
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月の光が 細く差す部屋で
ひとりの人が 窓を見つめていた
声をかけても
返ってくるのは 静かな息だけ
カピちゃんは
言葉を探すことをやめて
少し離れた椅子に座った
急がせないこと
決めつけないこと
沈黙にも 居場所をつくること
長い夜の終わりに
伏せられていた目が ほんの少し上がる
そのまなざしを受けとめたとき
閉ざされていた扉の縁に
淡い金色の光が ひとすじ灯った
カップへ伸びかけた手
窓辺の花に向けられた目
名前を呼ばれたときだけ
わずかに変わる呼吸
小さなしぐさは
夜空に浮かぶ星のように
ひとつずつ 部屋を照らした
カピちゃんは
見えたものを 勝手に答えにせず
確かめられる日を待ちながら
光の位置を そっと覚えていく
言葉と言葉の間には
空白ではなく
まだ名づけられていない想いがある
星の光がつながるたび
部屋の奥に 小さな道が現れた
朝の気配が カーテンをほどくころ
ひとつの光が 手のひらへ降りた
「ここで もう少し暮らしたい」
それは
大きな声ではなかった
迷いを含んだ かすかな願いだった
カピちゃんは
その願いを 誰かの都合で塗り替えず
家族へ 仲間へ
そして明日の暮らしへ 手渡していく
ひとりの声が
いくつものやさしい手に受けとめられ
できることを探す道へ変わる
言葉にならなかった想いは
消えていたのではない
安心して声になれる場所を
ずっと待っていたのだ
扉の外には
新しい朝の光が 静かに広がっていた
待つことは、沈黙を置き去りにしないこと。
気づくことは、小さなしぐさに居場所をつくること。
つなぐことは、その人の願いを明日の暮らしへ届けること。