CARE MANAGEMENT PRACTICE
なぜケアマネジャーの仕事は大変と言われるのか
制度・関係・認知負荷から考える、持続可能なケアマネジメント
「いつも時間に追われている」「書類が終わらない」「帰宅しても案件が頭から離れない」。こうした負担は、仕事の進め方や個人の能力だけでは説明できません。
ケアマネジャーの仕事には、法令に基づく一連の業務、変化し続ける生活情報の統合、多職種との連絡調整、本人・家族との合意形成が重なります。さらに、制度上の役割が明確でない相談であっても、生活を止めないために一度は受け止め、適切な機関へつなぐ必要が生じることがあります。
本稿では、制度上の役割を確認したうえで、制度・組織・家族・地域・支援関係の相互作用を考えます。次に、作業記憶、割り込み、タスク切替などの認知科学の知見を、断定しすぎない形で実務へつなげます。最後に、個人、事業所、地域・制度の三つの層から改善策を整理します。
1.制度上、ケアマネジャーに求められていること
生活全体を見ながら支援を組み立てる
指定居宅介護支援では、利用者の意思と人格を尊重し、心身の状況、生活環境、本人・家族の希望を踏まえ、適切な保健医療・福祉サービスが総合的かつ効率的に提供されるよう配慮することが求められています。[1]
相談受付、アセスメント、ケアプラン作成、サービス担当者会議、関係機関との連絡調整、モニタリング、必要に応じた計画の見直し、記録は、別々の事務作業ではありません。本人の状態が変われば、サービスの必要性、家族の負担、医療との連携、生活上の優先順位も変わります。ケアマネジャーは、分散した情報を更新しながら、一つの生活支援として再統合します。
法定業務の外側にも調整が生じる
厚生労働省の中間整理では、高齢者の医療ニーズ、独居、認知症、世帯課題の複雑化・複合化を背景に、利用者や家族からの幅広い相談・依頼へ対応せざるを得ない状況が示されています。また、いわゆるシャドウワークを含め、業務が増加していることも指摘されています。[2]
他機関へつなぐべき課題であっても、「つなぐまで」の確認、説明、連絡、調整には時間がかかります。担当範囲ではないという理由だけで、目の前の困りごとが直ちに解消するわけではありません。
「仕事が遅い」だけでは説明できない
負担は担当件数だけで決まりません。利用者の状態変化、家族関係、医療ニーズ、緊急性、利用できる地域資源、連絡の取りやすさ、事業所内の支援体制によって、同じ一件でも必要な時間と判断量は変わります。国内の全国サンプルを用いた研究でも、独居、家族関係、医療依存、サービス拒否など、複数のケース類型で対応困難感が検討されています。[17]
仕事の要求と仕事の資源を分けて考えるJD-Rモデルでは、高い仕事の要求は消耗と、仕事の資源の不足は仕事からの距離化と関連すると考えます。[5] 資源には、人員、時間、裁量、情報、同僚の支援、使いやすい仕組みなどが含まれます。「本人がもっと頑張る」ことだけを対策にしても、要求と資源の不均衡が変わらなければ、負担は繰り返されます。
2.臨床社会学の視点から見る業務負担
本稿でいう「臨床社会学の視点」とは、困りごとを個人の性格や能力だけに帰属させず、制度、組織、家族、地域、専門職の役割、当事者の語りがどのように関係し合っているかを、具体的な支援場面から考えるための視点です。特定の診断法や単一の確立した学説としてではなく、個人への支援と周囲の仕組みへの働きかけを切り離さずに考える補助線として用います。
WHOも、健康や生活は個人特性だけでなく、人が暮らし、働き、年を重ねる条件や、権力・資源へのアクセスに影響されると整理しています。[3] また、人を中心とした統合的支援では、本人と地域の包括的なニーズ、参加、サービス間の調整、支援者を支える環境が重視されています。[4]
制度の言葉と、生活の言葉を往復する
制度上の手順は、支援の質、公正さ、説明責任を守るために必要です。一方、実際の生活は制度の項目どおりには分かれていません。退院後の生活には、医療上の注意、住環境、服薬、食事、家族の介護力、本人の希望、利用できるサービス、費用が同時に関係します。
ケアマネジャーは、制度を守りながら、その人の生活に合う形へ翻訳し、関係者が理解できる言葉へ置き換えます。完成したケアプランだけからは見えにくい、この翻訳と調整こそが実務の重要な部分です。
調整役と、すべての責任を負う人は同じではない
ケアマネジャーは、本人、家族、医療機関、介護サービス事業所、行政のあいだをつなぎます。しかし、必要な連絡調整を担うことと、各機関の役割や結果まで一人で引き受けることは同じではありません。
- 現在の課題は何か
- 誰が判断し、誰が実行する事項か
- 次の連絡期限はいつか
- ケアマネジャーが対応できる範囲はどこまでか
- 対応できない部分を、どの機関へつなぐか
役割を言葉にすることは責任逃れではありません。支援の抜けを防ぎ、本人に必要な対応を継続するための境界設計です。
本人と家族の語りが異なるとき
本人は「まだ自分でできる」と話し、家族は「事故が起きる前に支援を増やしたい」と考えることがあります。この違いを、誰かの理解不足や非協力と決めつけると、支援関係は狭くなります。それぞれの語りには、守りたい生活、恐れていること、これまで担ってきた役割が反映されています。
実務では、①本人・家族が話したこと、②観察または確認できたこと、③専門職としての評価、④合意した対応と未合意の事項を分けます。語りを尊重することは、すべての希望をそのまま実現することではありません。本人と家族が意思決定に参加できる条件を整える専門的な仕事です。
支援関係にある見えにくい力の差
制度や地域資源の情報を持つ側、支援を提供する側、記録を書く側は、本人や家族の選択へ影響を与えます。これは意図的な支配に限らず、情報・決定・記録をめぐる非対称性です。複数の選択肢を示す、選ばなかった場合も説明する、本人の言葉を確認する、決定を後から見直せるようにする。こうした手続きが、本人の意思と専門職の責任の双方を守ります。
「正しい支援ができない苦しさ」を個人の弱さにしない
必要だと考える支援が、資源不足、組織の方針、時間、制度上の制約によって実現できないとき、専門職は強い葛藤を感じることがあります。医療・福祉領域では、倫理的に望ましい行動が制約されることで生じる苦痛を、モラルディストレスと捉える研究があります。[14]
これは診断名ではなく、日常の迷いや疲労をすべて説明する言葉でもありません。ケース相談、スーパービジョン、管理者へのエスカレーション、役割分担の再確認など、葛藤を言葉にできる場を持つことが、判断と責任を組織で支えることにつながります。国内の居宅介護支援事業所を対象とした質的研究でも、介護支援専門員の精神的ストレスと支援体制の課題が検討されています。[18]