現場のケアマネジャーが抱える、
終わらない「紙」への悩み
日々の業務の中で、このような「もどかしさ」を感じてはいませんか?
- 「DX化」「ICT導入」と叫ばれているが、現場の実感としては全く進んでいない。
- せっかくデータ化して保存しても、申請手続きや保管のために結局「紙」に出力しており、二度手間になっている。
- 毎日届く大量のFAXや郵便物に埋もれてしまい、報告書などをスキャナーで読み込み、データ化して保存している。
PPAPはやめましょう!
「メールで報告書を送ってくれても、その直後に同じ経路(メール)でパスワードが届くため、セキュリティ対策として疑問を感じる。」
ファイルを添付したメールの直後に、同じ経路(メール)でパスワードを送る手法は、IT業界でPPAP※と呼ばれ、現在ではセキュリティ対策として「意味がない」と批判されることが多くなりました。
なぜなら、「1通目のメールを盗み見できる人は、同じ宛先に届く2通目のパスワードメールも容易に盗み見できてしまう」からです。また、1通目を誤送信した場合、2通目も同じ相手に送ってしまうリスクがあります。
手間が増えるだけで本来の目的が失われた、まさにセキュリティ対策が形骸化※した慣習の典型例と言われています。
※PPAPとは 「Password付きZIPファイルを送る」「Passwordを後で送る」「A(暗)号化」「Protocol(手順)」の頭文字を取った俗語。セキュリティ効果が薄いため、内閣府をはじめ多くの企業が廃止しています。
※形骸化(けいがいか)とは 本来の意義や目的が失われ、外形だけが残っている状態のことです。
なぜ、デジタル技術が進んだ現代においても、医療・介護の現場からは「FAX」や「紙」がなくならないのでしょうか。
その背景には、現場の努力だけでは解決できない、複雑な事情が絡み合っています。
医療・介護現場にFAX・紙媒体が
根強く残る理由
日本の医療機関や介護事業所では、依然としてアナログな業務フローが中心です。その背景には「技術的要因」「制度的・法的要因」「文化的・慣習的要因」という3つの大きな壁が存在します。
このページでは、公式資料や専門家の指摘をもとに、なぜ現場のICT※化が進みにくいのか、その構造的な理由を整理します。
※ICT(Information and Communication Technology)とは 「情報通信技術」のこと。単なるIT(情報技術)に加え、人と人、人とインターネットがつながる「通信・伝達」の活用に重きを置いた言葉です。
1. 技術的要因:導入の壁と連携不足
電子カルテ等の普及の遅れ
厚生労働省の調査(2023年)によれば、電子カルテを導入しているのは一般病院で約65%、診療所で約55%にとどまります。介護現場でも「いまだにFAXが大活躍」しており、IT化以前の段階にある事業所も少なくありません。
システムのガラパゴス化※
各メーカーが独自規格で開発を進めた結果、他社システムとの互換性がない状態に陥っています。
その典型が「ケアプランデータ連携システム※」です。鳴り物入りで導入されましたが、費用や対応ソフトの壁に阻まれ、現場では依然として紙とFAXが主役であり続けています。
コストと人材の不足
初期導入に数百万円かかることもあり、利益率が低い介護事業所などでは投資余力がありません。国や自治体の補助金もありますが、その申請手続き自体が負担となり、断念するケースも見られます。
※ガラパゴス化とは 孤立した環境(日本市場など)で独自の進化を遂げた結果、外部の標準規格との互換性を失い、孤立してしまう現象のことです。
※ケアプランデータ連携システムとは 国が整備した、ケアプラン(予定・実績)のデータを事業所間でやり取りする基盤。しかし、利用料がかかる点や既存ソフトの改修が必要な点がハードルとなり、普及が進んでいません。
2. 制度的・法的背景:紙文化の温存
長らく制度や法規制が「紙の原本」や「押印」を前提としていたことが、デジタル化を阻んできました。例えば介護業界で、契約書等の電子化が介護報酬改定※によって正式に認められたのは、2021年と比較的最近のことです。
FAX処方箋の慣例化
電子処方箋※の整備が遅れた結果、待ち時間短縮や感染対策として「処方箋をFAXで薬局に送る」という運用が黙認され、事実上の標準となってしまいました。
セキュリティ神話
個人情報保護の観点から「インターネットより電話回線を使うFAXの方が安全」という認識を持つ現場も少なくありません。誤送信リスクはあるものの、メールへの抵抗感が依然として強いのが実情です。
※介護報酬改定とは 3年に1度行われる、介護サービスに対する公定価格やルールの見直しのこと。近年はICT活用による生産性向上が加算(報酬アップ)の条件に組み込まれています。
※電子処方箋とは これまで紙で発行されていた処方箋をデジタルデータ化し、医療機関・薬局・患者間で共有する仕組みのことです。
3. 文化的・慣習的背景:安心感と見えないコスト
高齢層のITリテラシー
医療・介護従事者は平均年齢が高く、機器操作に苦手意識を持つ層も一定数いらっしゃいます。「誰でも使えるFAXが簡単で安心」という同調圧力が、デジタル移行を妨げる一因です。
「紙が出る」安心感
「相手の機械から紙が出てくるので、確実に届いた気がする」という心理的な信頼感は根強いものがあります。メール等の見えない通信に対する不安が背景にあります。
FAX文化の「見えないコスト」
しかし、その裏には大きな無駄が隠れています。
・送受信にかかる職員の時間的ロス
・届いた紙を見てPCに入力し直す「二重入力」の手間
特に注意が必要なのが、「メールよりもFAXの方が圧倒的に誤送信※が多い」という現状です。
アドレス帳や返信機能を使えるメールと違い、FAXは毎回手作業で番号を押すことが多いため、番号の押し間違いによる情報漏洩リスクが実は非常に高いのです。
「紙なら安心」は思い込み? デジタルの方が安全な理由
また、紙媒体は紛失時のリスクも甚大です。紙は誰でも内容を見ることができるため、置き忘れや紛失がそのまま情報漏洩に直結します。
対して電子媒体(PC、タブレット、スマホ)の場合、現在は指紋認証や顔認証などの技術が進んでおり、かつ2段階認証※やパスコード認証※も普及しています。万が一端末を紛失しても第三者が情報にアクセスすることは難しく、実は紙よりもセキュリティリスクを抑えることができます。
※誤送信とは FAXの場合、宛先番号の入力ミスや、短縮ダイヤルの登録間違いなどがこれにあたります。
※2段階認証とは IDやパスワードに加え、スマートフォンに届く認証コードなどを入力させることで、本人確認を二重に行う仕組みのことです。
※パスコード認証とは スマートフォンやタブレットの画面ロックを解除するために設定する、数字や文字の組み合わせ(暗証番号)のことです。
これからの展望
政府は医療DX※を掲げ、2030年までに全国的なデータ連携基盤の整備を目指しています。現場でも少しずつ意識改革が始まっています。
急速な完全移行は困難でも、「FAXしかない」状況から「他の手段も選べる」環境へ。技術・制度・現場意識の三位一体でのアップデートが求められています。
※医療DX(デジタルトランスフォーメーション)とは 保健・医療・介護の各段階で発生する情報をデジタル化して共有し、サービスの質や業務効率を抜本的に向上させる取り組みのことです。