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社会臨床学の観点から見たケアマネジャー業務

社会臨床学の観点から見たケアマネジャー業務

本稿は、社会臨床学※1の基本的立場に基づき、介護支援専門員(ケアマネジャー)業務を「生活の場における臨床※2」として再整理するものです。

ケアマネジメントは、疾病・障害・老いを含む生活課題を、本人の生活史と社会資源の接点で扱う実務であり、社会臨床学の視野と深く整合します。

社会臨床学が捉える「臨床」とは

社会臨床学における臨床は、医療機関内の診療行為に限定されません。本人が暮らす家、家族関係、地域活動、制度利用の場面を含む、生活世界そのものが臨床の現場となります。
この立場では、困難を個人の内側へ過度に還元※3せず、同時に制度の欠陥のみへ収束させません。本人が直面する具体的困難が、関係性・環境・制度運用の相互作用の中でどのように成立しているかを扱い、支援を再設計することが中核となります。

※1 社会臨床学:精神科医の小沢勲らが提唱した、「支援」や「ケア」の現場を、社会や制度との関わりの中で点検し、そのあり方を問い直す学問・実践のこと。
※2 臨床(りんしょう):元々は「病床に臨む」という意味ですが、ここでは病院に限らず、介護や福祉、教育など「人が支援を必要としている具体的な生活の現場」全般を指します。
※3 還元(かんげん):ここでは、複雑な問題の原因を「個人の性格」や「病気」など、ひとつの単純な要素だけに帰結させてしまうことを指します(例:「うまくいかないのは本人の病気のせいだ」と決めつけること)。

ケアマネジャー業務を「社会臨床」として位置づける

介護支援専門員の業務は、アセスメント、居宅サービス計画の作成、サービス担当者会議、モニタリング、関係機関との連絡調整等の連続過程で構成されます。

社会臨床学の観点では、この連続過程を単なる「サービスの割付」ではなく、本人の生活が破綻しないように関係性と環境を整え直す臨床実践として扱います。

  • 第一:生活課題の主語化
  • 第二:関係性単位での支援設計
  • 第三:意思決定を支える言語化
  • 第四:公正中立性を臨床技術として実装すること

実務プロセスへの適用

(1) 相談受理・初期対応

初期対応では、主訴※4を「症状」ではなく「生活上の不具合」として把握します。
例えば転倒であれば、筋力低下の有無だけでなく、住環境、移動導線、独居か同居か、介助者の疲弊、受診・服薬の継続性、地域との接点の希薄化等を同時に扱います。ここで得られた情報は、後続の計画作成とモニタリングの観察軸となります。

(2) 課題分析(アセスメント)

課題分析は、医学的所見・機能評価に偏在させず、本人の生活史、価値観、家族関係、経済状況、地域資源アクセス、制度利用上の摩擦を同一平面で整理します。
社会臨床学の立場では、本人の困難を「どこで・誰との間で・何が起点となって生じているか」という形式で記述し、可変要素(環境・関係・手続・支援体制)を特定します。

(3) 居宅サービス計画の作成

計画は、サービス種別の羅列ではなく、本人の生活目標を日常行為へ落とし込んだ「生活運用計画」として構成します。
本人・家族が理解可能な言語で目標と手段を記述し、支援者間で解釈が分岐しやすい語(自立、見守り、介助、リハビリ等)は具体行為へ置換します。社会臨床学の観点では、この翻訳過程自体が臨床であると考えます。

(4) サービス担当者会議

担当者会議は、調整の場であると同時に、支援者側の前提を点検する場です。
医療職の病態把握、介護職の生活観察、福祉用具の環境評価、家族の介護運用が同一の目標へ整列しているかを点検し、役割や緊急時対応を具体化します。会議の目的は「説明」より「合意形成と運用可能性の確保」です。

(5) モニタリング

社会臨床学の観点では、モニタリング※5を「サービスが入っているか」の点検に留めず、生活の手触り(睡眠、食事、排泄、移動、役割感、交流、家族負担)の変化を観察し、関係性と環境の再設計が必要かを判断します。
入院・入所等で居宅面接が困難な期間であっても、生活再編の観点から継続的把握の必要性が論点となります。

※4 主訴(しゅそ):本人や家族が最も強く訴えている悩みや症状のこと。
※5 モニタリング:サービスの利用開始後、計画通りにサービスが提供されているか、目標が達成されているか、新たな課題が出ていないかなどを継続的に確認・評価すること。

公正中立性と振り返り

公正中立性を「制度遵守」ではなく「臨床技術」として扱う

行政文書でも特定の事業者利用の勧誘等が問題として指摘されていますが、社会臨床学の観点では、公正中立性は単なる倫理の標語ではありません。
それは「支援関係の歪みを生みにくい実装技術」です。具体的には、選択肢の提示方法、説明の順序、情報量の均衡、記録の透明性、利害関係の切り分けを、日常業務の手順として固定化することが要点となります。

記録と振り返り

社会臨床学は、「臨床という営み」そのものを点検対象に置きます。
ケアマネジャーにおける点検は、法定記録※6の整備だけでは足りません。支援が本人の生活運用にどの程度接続したか、関係者の役割が過不足なく配分されたか、説明が本人・家族の理解と合意に到達したか、という臨床的観点での振り返りを、記録様式と会議運用へ埋め込むことが必要となります。

※6 法定記録(ほうていきろく):介護保険法などの法令によって、作成・保存が義務付けられている書類のこと(アセスメントシート、サービス担当者会議の要点、モニタリング記録など)。

まとめ

社会臨床学の観点から見たケアマネジャー業務は、生活課題を主語に据え、関係性と環境を可変要素として扱い、意思決定を支える言語化と運用設計を中核に置く実践です。

アセスメントから計画、会議、モニタリングまでの各過程を
「生活の臨床」として統一的に運用する
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現代社会の社会課題の解決を、
社会臨床学の観点から考える

はじめに

現代社会の社会課題は、単一の原因や単一の制度設計のみで整序し難いものです。孤立、貧困、ヤングケアラー、介護負担、虐待、依存、メンタルヘルス不調、災害と生活再建、就労困難、地域コミュニティの希薄化などは、本人の生活史、家族関係、地域環境、行政制度、労働市場、文化規範といった複数層の相互作用の中で立ち上がります。

社会臨床学※1は、この複雑さを「現場における臨床」として扱い、社会・文化の中の臨床という営みを点検し、そのあり方を模索する学知として位置づきます。日本社会臨床学会は、人間の悩みや想いと、その背後にある社会の矛盾や問題を、領域や立場を越えて共に考える場を志向してきました。

本稿は、この立場から「社会課題の解決」を再定義し、現場で実装可能な考え方として整理するものです。

※1 社会臨床学:精神科医の小沢勲らが提唱した、医療・福祉などの「支援」の現場を、制度や社会構造との関わりの中で点検し、そのあり方を問い直す学問・実践のこと。

1. 社会臨床学が扱う「解決」とは何か

社会課題の「解決」は、しばしば次のように誤配(ごはい:間違った場所へ届けられること)されます。

  • 個人の心身・性格へ過度に還元※2する誤配
  • 制度手続のみへ収束※3させる誤配
  • 短期の成果指標だけを唯一の正解とみなす誤配
  • 専門分化の境界で問題を分断する誤配

これらは、現場の当事者にとっての生活上の不具合(暮らしが回らない、関係が切れる、選択肢が消える)を、別の言語へ置換してしまう危険を含みます。

社会臨床学の解決は、課題を「誰かの欠陥」として断罪することでも、「制度の不足」として一義化することでもありません。生活の現場で生じる困難を、関係性・環境・制度運用・文化規範の交点で捉え直し、当事者にとって運用可能な形へ再構成する営みです。

※2 還元(かんげん):複雑な事柄を、より単純な要素(個人の性格や病気など)だけに帰結させて説明しようとすること。
※3 収束(しゅうそく):様々な問題や意見が、ある一点(ここでは制度の手続き)にまとまっていくこと。

2. 「臨床」を生活世界に拡張する

社会臨床学の基礎には、臨床を医療施設内に限定せず、生活世界※4の中へ拡張する視点があります。日本社会臨床学会の目的規定は、臨床を社会・文化の中で点検するという射程を明確に置いています。

この拡張は、単なる対象範囲の拡大ではありません。臨床とは、困難が顕在化する「場」であり、支援が届く「経路」であり、説明と合意が形成される「言語空間」でもあります。ゆえに、社会課題の解決は、制度の設計図よりも先に、現場でどのような臨床が成立しているかの記述から始まります。

※4 生活世界:私たちが日常生活を営み、経験している、当たり前の現実世界のこと。

3. 「問題の定義」から共同実践を始める

社会課題は、誰が何を問題と呼ぶかによって、その後の介入の形が決まります。ここで重要となるのは、専門家の定義が一方的に貫かれる形でも、当事者の語りのみで閉じる形でもなく、相互の対話を通じて問題定義が更新される構造です。

臨床社会学・社会運動論の議論では、工学的モデル/臨床的モデルに対して、現場の人びとと研究者(専門職)との相互的な対話から新たな問題定義が創発※5する「対話的モデル」が論じられています。

社会臨床学の観点では、問題定義の共同生成それ自体が介入です。たとえば「閉じこもり」を、本人の意欲低下として定義するのか、地域の接点が途切れた結果として定義するのか、家族内役割の固定として定義するのかで、支援の入口は変わります。入口が変われば、連携する職種と資源が変わり、本人・家族の納得可能性も変わります。

※5 創発(そうはつ):部分の性質の単純な総和にとどまらない特性が、全体として現れること。ここでは、対話の中から予期せぬ新しい定義が生まれることを指します。

4. 介入は「意図せざる結果」を含むことを前提とする

社会課題への介入は、善意と努力だけで完結しません。支援は、当事者の生活に働きかける一方で、関係性の再編や資源配分の変化を伴い、思わぬ副作用を生み得ます。援助行為が意図せざる結果※6を伴う可能性を含め、臨床場面の危うさや関与の仕方が論点となります。

社会臨床学の実践では、成功の物語だけでなく、副作用の兆候(関係の緊張、自己効力感※7の低下、依存の固定、排除の強化)を点検可能な形で記述し、介入を小さく試し、調整し、継続的に更新する態度が中核となります。

※6 意図せざる結果:ある目的のために行った行為が、当初の意図とは異なる結果(良いものも悪いものも含む)をもたらすこと。
※7 自己効力感:ある状況において必要な行動を、自分ならうまく遂行できるという自信や確信のこと。

5. 「社会課題」を三層で扱う:生活・関係・制度

社会臨床学の実装においては、社会課題を少なくとも三層で扱うと整理しやすくなります。

  • 第一層:生活の運用
    睡眠、食事、金銭管理、受診、移動、家事、就労、学業など、日々の繰り返しが回るかどうかが焦点。
  • 第二層:関係性
    家族内役割、ケアの分担、支援者との距離、地域との接点、職場・学校での位置づけが焦点。
  • 第三層:制度と資源
    利用可能な制度、手続の摩擦、サービス供給の偏在、情報の非対称※8、スティグマ※9、規範の圧力が焦点。

解決とは、この三層のどこか一つを単独で改変することではなく、層をまたいで整合する「運用形」を作ることです。たとえば、制度が存在しても手続が重くアクセス不能であれば、生活は回らない。関係が断たれていれば、制度利用があっても孤立は深まる。生活の運用が破綻していれば、関係再建も制度利用も継続しにくいのです。

※8 情報の非対称:専門家と利用者など、両者の持っている情報量や質に格差がある状態のこと。
※9 スティグマ:特定の属性を持つ人に対する、社会的な偏見や差別、負の烙印のこと。

6. 現代の主要な社会課題を、社会臨床学的に読み替える

6-1. 孤立・孤独

孤立は、交流の量だけで測定し難いものです。社会臨床学では、当事者が「頼れる経路」を持つか、役割や所属が生活の中で成立しているか、緊急時に連絡が届く構造があるかを扱います。解決は「友人を作る」ではなく、「接点が自然に生まれる運用」を設計することへ向かいます。地域の拠点、買い物、通院、就労、介護サービス等の動線に、無理のない接触点を埋め込むことが技術となります。

6-2. 貧困・生活困窮

生活困窮は所得だけの問題ではありません。住まい、債務、医療アクセス、養育・介護負担、就労の持続可能性、制度情報の取得可能性が連動します。社会臨床学の観点では、当事者の「選択肢が減る過程」を記述し、どの時点で何が途切れたかを点検します。解決は、給付や就労支援の単発投入ではなく、生活の運用が回るまでの連続した支援線を設計することにあります。

6-3. 介護・ケア負担(家族介護、ヤングケアラーを含む)

ケア負担は、本人の障害・疾病の重さだけで決まりません。家族内の役割固定、相談の遅れ、サービス導入への抵抗、周囲の規範(家族がみるべきという圧力)などが負担を増幅します。社会臨床学の観点では、ケアが誰の手にどのように集約していくかという「負担の流れ」を記述し、役割の再配分と外部資源の導入を「関係性の再設計」として扱います。

ここで重要なのは、当事者の尊厳と合意を損なわない言語化であり、支援が家族内の力学を硬直化させない運用です。

※10 ヤングケアラー:本来は大人が担うような家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと。

7. 解決の技術としての「言語化」と「翻訳」

社会課題の現場では、医療・福祉・教育・司法・雇用・地域が、それぞれ異なる言語と評価基準で動きます。社会臨床学は、どれか一つの専門言語に統一することよりも、相互に翻訳し、当事者の生活言語へ接続する作業を重視します。

この翻訳の二つの方向

一つは、専門職間の翻訳です。診断名・所見・制度用語・支援計画を、他領域が運用できる形へ落とします。

もう一つは、当事者への翻訳です。支援の目的と手段を、当事者が自ら語れる形へ整えます。

社会臨床学の立場から見ると、この翻訳の精度が、支援の継続性を左右します。翻訳が粗いと、支援は「理解されない手続」になり、関係は途切れやすくなります。

8. 「評価」を、成果指標のみに閉じない

社会課題の領域では、数値指標が重要である一方で、数値に還元し難い成果も同時に扱う必要があります。たとえば、本人が安心して相談できる窓口が成立したか、支援へのアクセス経路が増えたか、関係性が破綻しない形で役割再配分が起きたか、意思決定が本人中心で進んだか、といった臨床的成果です。

社会臨床学の評価は、成果の量だけでなく、支援の過程が当事者の尊厳・合意・生活運用を損なわない形で組まれているかという点検を含みます。

9. 実践者にとっての要点:点検と共同性

日本社会臨床学会は、社会・文化の中の臨床を点検し、領域や立場を越えて共に考える場を志向してきました。

この立場から導かれる実践者の要点は、単純です。すなわち、現場の語りと運用を丁寧に記述し、問題定義を共同で作り、介入の副作用を含めて点検し続けることです。臨床社会学の議論が扱う対話的モデルは、現場の人びとと専門職が相互的に問題定義を更新する枠組みとして参照できます。

また、介入が意図せざる結果を伴い得るという論点は、支援を「正しさ」ではなく「運用可能性と安全性」の問題として扱うための基盤となります。

おわりに

社会臨床学の観点からの社会課題解決とは、社会の矛盾を告発する言説※11に留まらず、当事者の生活世界の中で、関係性と環境と制度運用を組み替え、日々の運用が回る形を作る営みです。そこでは、問題定義の共同生成、言語の翻訳、介入の副作用の点検、三層(生活・関係・制度)をまたぐ設計が中心となります。

社会課題に向き合うとき、最終的な到達点は「完全な解消」ではなく、当事者が選択肢を持ち続け、困難が増幅しない運用を獲得することです。社会臨床学は、そのための点検の技術と共同実践の枠組みを提供します。

※11 言説(げんせつ):特定の問題について語られた言葉や意見の集まりのこと。ここでは「批判する言葉を発するだけ」という意味合い。

現代社会の社会課題の解決を、
社会臨床学の観点から考える2

1. 社会臨床学における「解決」の定義

社会臨床学の観点からの「解決」とは、原因の特定と処方の提示で完結するものではありません。生活の現場で生じている不具合を、関係性・環境・制度運用・文化規範の交点で捉え直し、当事者にとって継続可能な生活運用へ再構成する営みです。

ここで重要なのは、解決を「正答の提示」ではなく「生活が回る形の獲得」として扱う点にあります。すなわち、当事者が選択肢を持ち続け、困難が増幅しない仕組みを作ることが中核となります。

2. 「臨床」を生活世界へ拡張する

社会臨床学が扱う臨床は、医療機関内に限局しません。家庭、学校、職場、地域、制度窓口、支援機関の連携面談など、生活が展開する場の全体が臨床の舞台です。

この拡張は、対象範囲の拡大ではなく、介入の単位を変えることを意味します。個人の内面のみを単位とせず、日常の運用、関係の組み方、資源への到達経路を単位として扱います。したがって、社会課題を扱う実践は「制度を当てる」ことでも「心理を整える」ことでもなく、生活運用を成立させるための設計と調整になります。

3. 社会課題を読み解く基本視点

社会臨床学的な実務化のため、社会課題を次の複数層として把握します。

  • 第一:生活の運用
    睡眠、食事、金銭、通院、移動、家事、就労・就学、休息、交流が日々継続できるかを扱います。
  • 第二:関係性
    家族内役割、ケア分担、支援者との距離、地域の接点、所属と役割の有無を扱います。
  • 第三:制度運用
    制度の有無よりも、手続の摩擦、供給の偏在、情報の非対称※1、連携の切れ目を扱います。
  • 第四:文化規範
    「家族が担うべき」「迷惑をかけてはならない」「相談は弱さ」といった規範※2が、援助要請と資源利用を左右します。
  • 第五:時間軸
    課題は突然生じるのではなく、選択肢が減少し、関係が細り、生活運用が崩れ、相談が遅れる過程として進行します。解決は、この過程のどこに介入するかで質が変わります。
※1 情報の非対称:専門家と利用者など、両者の持っている情報量や質に格差がある状態のこと。
※2 規範(きはん):社会集団の中で、行動や判断の基準となるルールや「こうあるべき」という通念のこと。

4. 方法論としての「問題定義の共同生成」

社会課題の現場では、「何が問題か」の定義が一致しないことが多くあります。支援者は制度要件で語り、医療は病態で語り、教育は学習や発達で語り、当事者は生活の困りごとで語ります。この不一致を放置すると、支援は断片化し、当事者は説明疲労を起こし、支援線が途切れます。

社会臨床学的実践では、問題定義を専門職が一方的に決めません。現場の人びとと専門職が相互に対話し、従来の定義とも専門性から直線的に導いた定義とも異なる「新たな問題定義」が立ち上がる、という視点が重要となります。

この共同生成は、会議の体裁を整える行為ではなく、介入そのものです。問題定義が変われば、必要資源が変わり、関係者の役割が変わり、当事者が受け取れる説明の形も変わります。

5. 介入の副反応を前提として設計する

社会課題への支援は、善意のみで無害とは限りません。支援が関係性を固定し、依存を強め、排除を促進し、当事者の自己決定を弱める可能性があります。臨床社会学の議論には、援助行為が「意図せざる結果※3」を伴うという論点があります。

したがって、社会臨床学の実装では、支援を「大きく正しく入れる」よりも、「小さく試し、反応を観察し、調整し、継続可能な形に落とす」ことが基本となります。ここで必要となるのは、当事者の生活運用に関する観察、支援者間の情報共有、調整可能な計画、そして介入の影響を点検できる記録です。

※3 意図せざる結果:ある目的のために行った行為が、当初の意図とは異なる結果(良いものも悪いものも含む)をもたらすこと。

6. ケアと支援関係の非対称性への留意

介護、養育、支援は、援助する側と援助される側の非対称性※4を含みます。非対称性は、依存や支配の形へ転じやすいものです。ケアの臨床社会学の議論でも、非対称性とケアの両義性※5が論点となり、ケアを美談化する語りがリスクを覆い隠す危険が語られています。

社会課題の解決を目指す支援は、当事者の尊厳と合意を軸に置き、支援の主導権が過度に支援者側へ偏らない設計が必要です。説明の言語、選択肢の提示の順序、同意の取り方、家族内の役割配分の変更、苦痛や拒否の表明を受け止める手順を、実務として整備することが要点となります。

※4 非対称性:対等ではなく、一方に力や情報が偏っている状態のこと(例:支援する側とされる側の関係)。
※5 両義性(りょうぎせい):相反する二つの意味や性質を同時に持っていること(例:ケアは「救い」であると同時に「管理」にもなり得る)。

7. 課題領域別にみた社会臨床学的アプローチ

7-1. 孤立・孤独

孤立は交流の量だけで評価できません。重要なのは、当事者が「頼れる経路」を持つか、緊急時の連絡が届く構造があるか、所属と役割が生活の中で成立しているかです。
解決は「友人を増やす」ではなく、「生活動線の中に無理のない接点を埋め込む」ことです。買い物、通院、役所手続、地域拠点、介護サービスの利用など、既存の行動に接点を重ね、当事者が努力で関係を作らずに済む運用を作ります。

7-2. 介護負担・ヤングケアラー

介護負担は要介護度だけで決まりません。家族内役割の固定、相談の遅れ、支援導入へのためらい、周囲の規範が負担を増幅します。
社会臨床学的には、負担がどの経路で一人に集積したかを時間軸で記述し、役割再配分と外部資源導入を「関係性の再設計」として進めます。本人中心の同意と、家族の生活運用の継続性を同時に扱うことが必須となります。

※6 ヤングケアラー:本来は大人が担うような家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと。

7-3. 貧困・生活困窮

生活困窮は所得の不足のみでは説明できません。住居、債務、医療アクセス、就労の持続可能性、手続の摩擦、情報不足が連鎖します。
解決は給付の単発投入ではなく、生活運用が回るまでの連続支援線の設計です。具体には、住まいの確保、医療・服薬の継続、家計の整理、就労支援、福祉制度の導入を「同時進行で組む」必要があります。

7-4. DV・虐待

DV・虐待は「関係の問題」であると同時に「安全の問題」です。安全確保が最優先であり、支援は段階化が必須となります。
社会臨床学の観点では、当事者の語りを尊重しつつ、連絡先・居場所・支援機関・法的支援の到達経路を整備し、当事者が選択可能な形で提示します。関係性の再編は、当事者の安全が担保された範囲でのみ扱います。

7-5. メンタルヘルス不調

症状の重さのみで生活の困難は決まりません。睡眠、食事、服薬、通院、対人接触、就労・就学の運用が崩れると、症状は増幅しやすいものです。
社会臨床学的には、医療介入と並行して、生活運用の最低限を確保する仕組みを作ります。相談が遅れる局面が多い領域であるため、当事者が「相談できる形式」を整えることが支援の中核となります。

7-6. 災害と生活再建

災害は、住まい、医療、福祉、経済、家族分離、地域機能の断絶を同時に起こします。復旧期には手続が多層化し、情報が断片化しやすいものです。
社会臨床学の観点では、制度の一覧よりも「当事者の生活運用が回復する順序」を優先します。すなわち、生命の安全、居住、医療、収入、子ども・高齢者ケア、地域接点の順で支援線を組み、担当分担と連絡手順を明確化します。

8. 実装のための手順(社会臨床プロトコル)

現場で運用するために、次の順序が適します。

  • 第一段階:入口の整備
    相談が遅れない導線、匿名・短時間でも話せる窓口、他機関からの紹介が届く仕組みを整える。
  • 第二段階:生活運用の把握
    困りごとを症状や制度要件に変換する前に、生活のどこが回らないかを記述する。
  • 第三段階:問題定義の共同生成
    支援者間の言語差を翻訳し、当事者の生活言語へ落とす。
  • 第四段階:小さな試行
    介入は最小単位で導入し、生活反応・関係反応・制度反応を観察し、調整する。
  • 第五段階:役割分担の固定化
    担当、連絡、緊急時対応、意思決定の手順を明文化し、継続可能性を高める。
  • 第六段階:レビュー
    成果は数値のみで扱わず、当事者の選択肢が増えたか、生活運用が回るようになったか、関係が破綻しにくい形になったかで評価する。
※7 プロトコル:本来は「儀礼」「議定書」「手順」などを意味します。ここでは、支援を行う上での「標準的な手順」や「共通の約束事」のこと。

9. ケアマネジャー業務との接続

介護支援専門員の実務は、アセスメント、計画、会議、モニタリングを通じて、生活運用と関係性と資源を統合する役割を担います。ここに社会臨床学の視点を導入すると、ケアマネジメントは「サービス調整」から「生活運用の臨床」へ明確に位置づけられます。

具体には、課題を本人の欠陥として扱わず、生活運用の不具合として記述すること、家族内役割と地域接点を計画要素として扱うこと、支援導入の副反応を点検しながら調整することが要点となります。

結語

社会臨床学の観点からの社会課題解決は、抽象的理念ではなく、生活世界で成立する臨床の設計です。問題定義の共同生成、介入の副反応を前提とした小さな試行、非対称性への配慮、生活運用の回復を軸に据えた評価を通じて、当事者が選択肢を保ち続ける形を作ります。