成年後見制度(判断能力が十分でない方の財産管理や契約を、家庭裁判所が選任した支援者などが支える制度です)※1・任意後見・日常生活自立支援事業
判断能力や身寄りの問題がある方の権利と暮らしを支える制度
制度内容基準日:2026年8月2日
認知症、知的障害、精神障害、脳血管疾患の後遺症などにより、契約や財産管理について一人で判断することが難しくなる場合があります。
また、判断能力に大きな問題がなくても、身近に頼れる親族がいない、通帳や重要書類の管理が難しい、福祉サービスの手続が分からないといった事情から、日常生活に支障が生じることがあります。
このような場面で利用を検討する制度が、成年後見制度、任意後見制度(判断能力があるうちに、将来支援を頼む人と支援内容を公正証書で決めておく制度です)※3、日常生活自立支援事業です。
ただし、これらは同じ制度ではありません。支援を開始する時点の判断能力、必要な支援の範囲、家庭裁判所の関与、支援者に与えられる権限、利用に必要な費用などが異なります。
さらに、成年後見制度については、2026年6月に大規模な改正法が成立しました。改正法では、現在の「後見・保佐・補助」という三つの類型を補助制度に一元化し、本人に必要な範囲で利用できる制度へ変更することなどが定められています。
もっとも、成年後見制度に関する改正部分は、2026年8月2日現在、まだ施行されていません。現在の申立てや後見事務には、原則として従来の制度が適用されます。
このページでは、まず現在利用できる制度を説明し、その後に改正法の内容と今後の注意点を整理します。
1.成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない人について、家庭裁判所が選任した成年後見人(現行制度で、判断能力を欠く常況にある方の法律行為や財産管理を支援するため家庭裁判所が選任する人です)※4、保佐人(現行制度で、判断能力が著しく不十分な方の重要な行為を同意・取消しなどにより支援する人です)※5、補助人(現行制度で、判断能力が不十分な方を家庭裁判所が定めた範囲で支援する人です)※6などが、財産管理や契約を支援する制度です。
成年後見制度には、次の二つがあります。
- 判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てる「法定後見制度(本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所への申立てによって支援者を選ぶ制度です)※2」
- 判断能力が十分なうちに、将来の支援者と支援内容を決めておく「任意後見制度」
成年後見制度の中心となる仕事は、本人の財産を管理することと、本人の生活や療養、介護に関する契約を整えることです。
財産管理に含まれる主な仕事
- 預貯金や現金の管理
- 年金や各種給付金の受領
- 医療費、介護費、家賃、公共料金などの支払い
- 不動産の管理や売却
- 保険契約に関する手続
- 税金の申告や納付
- 相続手続や遺産分割
- 借金や未払金の整理
- 不利益な契約の取消し
- 本人の財産状況を家庭裁判所へ報告すること
身上保護に含まれる主な仕事
「身上保護」とは、本人の生活、療養看護、介護、住居などについて必要な契約や手続を整えることです。
- 介護保険の申請
- ケアマネジャーや介護事業所との契約
- 障害福祉サービスの申請と契約
- 病院への入院契約
- 介護施設への入所契約
- 住居の賃貸借契約
- 医療費や介護費の支払い
- 本人の生活状況を把握するための面会
- 支援者や関係機関との連絡調整
- 必要に応じたサービスの変更
ここで大切なのは、成年後見人等が直接介護をする制度ではないという点です。
成年後見人等は、食事介助、排泄介助、掃除、買物、通院同行などを職務として引き受けるものではありません。必要な介護サービスや生活支援を利用できるよう、契約と費用の支払いを整える立場です。
2.法定後見制度の「後見・保佐・補助」の違い
2026年8月2日現在の法定後見制度には、「後見」「保佐」「補助」の三つの類型があります。
どの類型を利用するかは、病名だけでは決まりません。本人が契約や財産管理の意味をどの程度理解し、自分で判断できるかによって判断されます。
| 類型 | 判断能力の目安 | 支援者 | 主な権限 | | -- | --------------- | ----- | ----------------------------- | | 後見 | 判断能力を欠く状態が通常である | 成年後見人 | 原則として広い代理権(本人に代わって契約などの法律行為を行う権限です)※7と取消権 | | 保佐 | 判断能力が著しく不十分である | 保佐人 | 重要な財産行為についての同意権・取消権。必要に応じて代理権 | | 補助 | 判断能力が不十分である | 補助人 | 家庭裁判所が定めた行為についての同意権、取消権、代理権 |
後見
後見は、本人が日常的な買物を含め、財産や契約について自分で判断することが難しく、継続的に広い支援が必要な場合に利用されます。
成年後見人には、本人の財産に関する広い代理権があります。本人に代わって預貯金を管理し、介護サービス、施設入所、不動産売却などの契約を進めることができます。
また、本人が成年後見人の関与なく契約した場合、日用品の購入など日常生活に関する行為を除き、成年後見人が取り消せる場合があります。
例えば、本人が訪問販売で高額な商品を購入した、不必要なリフォーム契約を締結した、理解しないまま高額な金融商品を契約したといった場合です。
ただし、取消しが本人にとって常に有利とは限りません。契約内容、商品の使用状況、相手方との関係などを踏まえ、本人の利益になるかを個別に考える必要があります。
保佐
保佐は、日常的な買物は一人でできても、借金、不動産売却、相続、訴訟などの重要な財産行為を一人で適切に判断することが難しい場合に利用されます。
保佐人は、民法第13条第1項に定められた重要な財産行為について同意権と取消権を持ちます。
対象となる主な行為は次のとおりです。
- 預金の元本を受け取ること
- 借金をすること
- 他人の保証人になること
- 不動産など重要な財産を取得または処分すること
- 訴訟をすること
- 贈与、和解、仲裁合意をすること
- 相続の承認や放棄をすること
- 遺産分割協議をすること
- 新築、改築、増築、大規模修繕をすること
- 長期間の賃貸借契約を結ぶこと
本人が保佐人の同意を得ずにこれらの行為をした場合、保佐人または本人が取り消せることがあります。
一方、保佐人には当然に包括的な代理権が与えられるわけではありません。本人に代わって預金を払い戻す、施設契約をする、不動産を売却するといった代理行為が必要な場合は、家庭裁判所に代理権付与を申し立てます。
代理権を付けるには、原則として本人の同意が必要です。
補助
補助は、本人に一定の判断能力があるものの、特定の契約や財産管理について支援を受けたほうがよい場合に利用されます。
補助人の権限は、家庭裁判所が必要な範囲に限定して定めます。
例えば、次のような設定が考えられます。
- 高額な預貯金の払戻しに限って代理権を付ける
- 介護施設への入所契約について代理権を付ける
- 不動産売却について同意権と取消権を付ける
- 遺産分割協議について代理権を付ける
- 障害福祉サービスの契約について代理権を付ける
本人以外の人が補助開始を申し立てる場合、原則として本人の同意が必要です。同意権、取消権、代理権を付ける場合にも、本人の同意が基本となります。
本人の自己決定をできる限り残し、必要な部分だけを支援する制度であることが、補助の特徴です。
3.病名だけで類型を決めない
「認知症だから後見」「精神障害だから保佐」「知的障害が軽度だから補助」と機械的に決めることはできません。
同じ病名でも、判断能力や生活状況には大きな違いがあります。
例えば、認知症があっても、支援者から説明を受ければ介護サービスの内容を理解し、自分の希望を伝えられる人がいます。一方、症状が進み、預金や契約の意味がほとんど分からなくなっている人もいます。
精神障害では、症状が時期によって変動することがあります。知的障害では、分かりやすい説明や支援者の同席によって、本人が自分で選択できる場合があります。
家庭裁判所は、医師の診断書だけでなく、本人情報シート、申立事情説明書、本人との面談、親族や支援者からの情報などを踏まえて判断します。
制度を検討するときは、「本人が何もできない」とまとめるのではなく、次のように具体的に整理することが重要です。
- 日常の買物は一人でできるか
- ATMを使えるか
- 通帳残高や毎月の収支を理解できるか
- 医療費や介護費を支払えるか
- 契約内容を理解できるか
- 複数の選択肢を比較できるか
- 不利益な条件に気づけるか
- 支援を受けながら意思を伝えられるか
- 詐欺や訪問販売の被害に遭っていないか
- 相続や不動産売却などの課題があるか
4.成年後見人等には誰が選ばれるのか
成年後見人等を選ぶのは家庭裁判所です。
申立書に候補者を書くことはできますが、候補者が必ず選ばれるわけではありません。本人の財産、家族関係、必要な法律行為、利益相反の有無、候補者の適性などを踏まえ、家庭裁判所が選任します。
成年後見人等になる人には、次のような例があります。
- 配偶者、子、きょうだいなどの親族
- 弁護士
- 司法書士
- 社会福祉士
- 社会福祉協議会
- NPO法人、一般社団法人などの法人
- 市民後見人
財産が多い、親族間に対立がある、不動産処分や訴訟がある、相続関係が複雑であるといった場合には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることがあります。
生活支援や福祉的な調整が中心となる場合には、社会福祉士や福祉関係法人、市民後見人などが候補になることがあります。
事案によっては、親族と専門職など、複数の成年後見人等が選ばれる場合もあります。成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人が選任され、成年後見人等の事務を監督する場合もあります。
5.申立てができる人
現在の法定後見制度では、主に次の人が申立てをすることができます。
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族
- 成年後見人
- 成年後見監督人
- 保佐人
- 保佐監督人
- 補助人
- 補助監督人
- 任意後見受任者
- 任意後見人
- 任意後見監督人
- 検察官
- 市区町村長
四親等内の親族には、子、孫、父母、祖父母、きょうだい、おじ・おば、おい・めい、いとこなどが含まれます。親族関係によっては四親等に含まれない場合もあるため、戸籍上の関係を整理する必要があります。
ケアマネジャー、介護事業所、病院、相談支援専門員、民生委員、友人、近隣住民などには、原則として直接の申立権がありません。
ただし、本人の権利や財産が侵害されている場合には、地域包括支援センター、区役所、基幹相談支援センターなどへ情報を伝え、市区町村長申立てにつなげることができます。
6.家庭裁判所への申立て
申立先は、原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
ここでいう住所地は、住民票の住所だけでなく、本人が実際に生活している場所を基準に判断されることがあります。長期間入院している場合や施設に入所している場合は、事前に管轄する家庭裁判所へ相談するとよいでしょう。
横浜市内に住所がある人については、通常、横浜家庭裁判所が申立先となります。
主な申立書類
一般的には、次のような書類を準備します。
- 後見・保佐・補助開始申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 本人の財産目録
- 相続財産目録
- 本人の収支予定表
- 後見人等候補者事情説明書
- 親族の意見書
- 本人の戸籍謄本
- 本人の住民票または戸籍附票
- 候補者の住民票または戸籍附票
- 本人が登記されていないことの証明書
- 成年後見制度用の医師の診断書
- 本人情報シート
- 介護保険被保険者証や認定結果通知書の写し
- 障害者手帳や療育手帳の写し
- 預貯金、保険、不動産、負債などの資料
- 年金、給与、生活保護費などの収入資料
- 医療費、介護費、家賃などの支出資料
必要書類は事案や家庭裁判所によって異なります。最新の様式は、裁判所の後見ポータルサイトから取得できます。
申立て後の流れ
おおむね次のように進みます。
- 申立書類を家庭裁判所へ提出する
- 家庭裁判所が書類を審査する
- 申立人、本人、候補者などへの事情聴取を実施する
- 必要に応じて親族へ意向を尋ねる
- 必要に応じて医師による鑑定を実施する
- 家庭裁判所が類型と成年後見人等を決める
- 審判書が関係者へ送付される
- 審判の確定後、成年後見登記が登録される
- 成年後見人等が財産調査と支援を開始する
申立てから審判までの期間は事案によって異なります。親族間に対立がある、財産関係が複雑である、本人の居所が定まらない、鑑定が必要であるといった場合には、長期間を要することがあります。
緊急に財産を保全する必要がある場合には、審判前の保全処分を検討する場面もあります。個別の手続については弁護士または司法書士へ相談してください。
7.医師の診断書と本人情報シート
成年後見制度の申立てでは、家庭裁判所が定めた様式による医師の診断書を提出します。
診断書では、病名だけでなく、本人の判断能力について、後見、保佐、補助のどの状態に相当する可能性があるかが記載されます。
診断書を作成する医師
成年後見制度用の診断書は、必ずしも精神科医だけが作成するものではありません。
本人の心身の状態や生活状況を把握している主治医であれば、内科医、老年内科医、神経内科医、脳神経外科医などが作成する場合があります。
ただし、医師が本人の判断能力を評価するための情報を十分に持っていない場合、専門医の受診や追加の検査を案内されることがあります。
診断書の作成を依頼するときは、医療機関へ成年後見制度の申立てに使うことを伝え、裁判所指定の書式を渡します。
本人情報シート
本人情報シートは、ケアマネジャー、相談支援専門員、医療ソーシャルワーカー、施設職員、社会福祉士など、本人の生活を支援している福祉関係者が作成する資料です。
主に次の内容を整理します。
- 生活場所
- 日常生活動作
- 認知機能や精神状態
- 意思疎通の方法
- 金銭管理の状況
- 福祉サービスの利用状況
- 家族や支援者との関係
- 本人が希望している生活
- 今後必要になる支援
本人情報シートは診断書とは異なり、医学的診断をする書類ではありません。生活場面で本人ができること、支援を受ければできること、難しいことを医師や家庭裁判所へ伝えるための資料です。
8.鑑定とは
診断書とは別に、家庭裁判所が医師へ判断能力の鑑定を依頼することがあります。
現在の制度では、後見と保佐については原則として鑑定が必要とされていますが、診断書や関係資料から判断能力の状態が明らかな場合などには省略されることがあります。補助では、通常、鑑定を要しないことが多くなっています。
鑑定料は事案や医療機関によって異なります。数万円から十万円程度となることがありますが、申立て前に一律の金額を断定することはできません。
鑑定が必要になった場合は、家庭裁判所から納付方法などの案内があります。
9.申立費用
法定後見の申立てでは、一般に次の費用が必要です。
- 申立手数料
- 登記手数料
- 家庭裁判所へ納める郵便切手
- 戸籍謄本、住民票などの取得費
- 登記されていないことの証明書の取得費
- 医師の診断書作成料
- 必要になった場合の鑑定料
- 弁護士や司法書士へ依頼した場合の報酬
申立手数料は、後見・保佐・補助開始について通常800円分の収入印紙が基本となります。ただし、保佐や補助で代理権付与、同意権付与を併せて申し立てる場合は、追加の手数料が必要になります。
登記手数料は通常2,600円分の収入印紙です。
郵便切手の金額と内訳は家庭裁判所によって異なり、改定されることがあります。申立ての直前に管轄家庭裁判所の案内を参照してください。
申立費用は原則として申立人が準備します。ただし、申立ての際に手続費用を本人に負担させることを希望し、家庭裁判所が相当と判断した場合は、本人の財産から負担できることがあります。
資力が乏しい場合には、法テラスの民事法律扶助、自治体の成年後見制度利用支援事業などを利用できる可能性があります。
10.成年後見人等の報酬
成年後見人等の報酬は、本人や家族が自由に金額を決めて支払うものではありません。
成年後見人等が家庭裁判所へ報酬付与を申し立て、家庭裁判所が事務内容、管理財産額、本人の生活状況、特別な業務の有無などを踏まえて金額を決めます。
親族が成年後見人等になった場合でも、報酬付与を申し立てることができます。反対に、親族だから自動的に無報酬になるわけではありません。
専門職が選ばれた場合には、通常、継続的な報酬が本人の財産から支払われます。
基本報酬と付加報酬
報酬には、日常的な財産管理や身上保護に対する基本報酬と、特別に難しい仕事を担当した場合の付加報酬があります。
付加報酬の対象になり得る仕事には、次のようなものがあります。
- 不動産の売却
- 遺産分割協議
- 債務整理
- 訴訟対応
- 親族間の紛争への対応
- 多数の金融資産の整理
- 本人の居所変更に伴う複雑な調整
報酬額は各事案について家庭裁判所が決めるため、「必ず月額何円」と一律に案内することはできません。
最高裁判所は、報酬付与申立ての書式を裁判所ウェブサイトで公開しています。
11.本人の財産と家族の財産は分けて管理する
親族が成年後見人等になった場合でも、本人の財産を家族の共有財産のように扱うことはできません。
次のような支出は問題になる可能性があります。
- 家族の生活費を本人の預金から支払う
- 本人名義の財産を親族へ贈与する
- 本人の財産を親族へ無利息で貸す
- 本人の預金から親族の借金を返済する
- 本人の利益と関係のない冠婚葬祭費を支払う
- 記録を残さず多額の現金を引き出す
- 相続対策だけを目的として本人の財産を移す
本人が以前から家族へ生活費を渡していた場合でも、成年後見開始後に同じ支出を継続できるとは限りません。本人の生活、扶養義務、従来の経緯、本人の意思、財産状況などを踏まえる必要があります。
親族後見人であっても、本人の通帳、印鑑、現金、領収書などを分け、収支を記録し、家庭裁判所へ報告します。
12.本人の意思を尊重する
成年後見制度は、本人の意思を置き換えるためだけの制度ではありません。
成年後見人等には、本人の意思を尊重し、心身の状態と生活状況に配慮する責務があります。
本人に認知症や障害があっても、すべての意思決定能力を失うわけではありません。話す時間帯、説明方法、場所、同席者などを工夫すれば、自分の希望を伝えられる場合があります。
支援者には、次のような対応が必要です。
- 本人が理解しやすい言葉で説明する
- 写真、図、実物などを使う
- 選択肢を増やしすぎない
- 急いで結論を迫らない
- 本人が落ち着いている時間に話す
- 本人が信頼する支援者に同席してもらう
- 表情や行動も含めて意向を把握する
- 過去の生活歴や価値観を踏まえる
- 支援者の都合だけで決めない
- 本人にとって不利益が大きい場合は代替案を検討する
本人の希望が支援者の考えと異なるという理由だけで、本人の意思を無視することは適切ではありません。
一方、本人の希望どおりに進めると生命、身体、住居、財産に重大な危険が生じる場合もあります。その場合は、本人の意思、危険の程度、代替手段、支援によって危険を減らせる可能性などを多職種で検討します。
13.任意後見制度とは
任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、支援してもらう人と支援内容を契約で決めておく制度です。
支援を依頼する本人を「任意後見委任者」、支援を引き受ける人を「任意後見受任者」といいます。
任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結しなければなりません。
本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が生じます。その後、任意後見受任者は「任意後見人」として契約に定められた仕事を担当します。
任意後見契約で定められる主な内容
- 預貯金の管理
- 年金の受領
- 医療費、介護費、公共料金などの支払い
- 税金に関する手続
- 介護保険や障害福祉サービスの手続
- 病院への入院契約
- 介護施設への入所契約
- 住居の管理
- 不動産の管理や処分
- 保険契約に関する手続
- 定期的な生活状況の把握
- 関係機関との連絡調整
任意後見人の代理権は、契約書に記載された範囲に限られます。契約書にない行為を、任意後見人が当然に代理できるわけではありません。
14.任意後見制度を利用できる時期
任意後見契約を結ぶには、本人が契約内容を理解し、自分の意思で支援者と支援内容を決められる判断能力を持っている必要があります。
認知症の診断を受けたら直ちに契約できなくなるわけではありません。軽度の認知機能低下があっても、契約内容を理解して意思を表明できれば、契約できる可能性があります。
反対に、本人が契約の目的、任意後見人に与える権限、費用、将来の影響などを理解できない状態では、有効な契約を結ぶことが難しくなります。
任意後見を希望する場合は、判断能力が十分な段階で、公証役場、弁護士、司法書士、よこはま成年後見推進センターなどへ相談することが大切です。
15.任意後見契約の三つの形
任意後見契約は、開始時期との関係から、一般に次の三つの形で説明されます。
将来型
本人の判断能力が十分なうちは任意後見受任者による支援を開始せず、判断能力が低下した後に任意後見監督人の選任を申し立てる形です。
契約後から判断能力が低下するまでの間、本人と任意後見受任者の関係が薄くなり、開始時期を見失うおそれがあります。定期的に連絡を取る仕組みを併せて作ることが大切です。
移行型
任意後見契約と同時に、見守り契約や財産管理等委任契約を結び、判断能力が十分な段階から支援を受けます。
身体が不自由で銀行や役所へ行けない人、定期的な見守りを希望する人などに適する場合があります。
ただし、任意後見が始まる前の財産管理等委任契約には、家庭裁判所が選任する任意後見監督人による監督がありません。受任者の権限、報告方法、通帳管理、報酬などを契約書で明確にする必要があります。
即効型
任意後見契約を結んだ後、比較的早い時期に任意後見監督人の選任を申し立てる形です。
契約締結時に本人が十分な判断能力を持っていたかが問題になりやすいため、慎重な対応が必要です。
16.法定後見と任意後見の違い
| 比較項目 | 法定後見 | 任意後見 | | ---------- | ------------------- | --------------------- | | 準備する時期 | 判断能力が低下した後 | 判断能力が十分なうち | | 支援者 | 家庭裁判所が選任 | 本人が契約で選ぶ | | 権限 | 法律と家庭裁判所の審判で決まる | 任意後見契約で定める | | 契約方法 | 家庭裁判所への申立て | 公正証書による契約 | | 監督 | 家庭裁判所。監督人が付く場合もある | 現行制度では任意後見監督人が必ず選任される | | 取消権 | 類型と審判内容により認められる | 任意後見人には取消権がない | | 本人による支援者選択 | 候補者を挙げられるが決定権は家庭裁判所 | 本人が選べる | | 支援の開始 | 審判確定後 | 任意後見監督人選任後 | | 主な費用 | 申立費用、後見人等報酬 | 公正証書作成費、任意後見人報酬、監督人報酬 |
任意後見では本人が支援者を選べる一方、任意後見人には本人が締結した契約を取り消す権限がありません。
悪質商法や浪費への対応として取消権が必要な場合は、法定後見制度の利用も含めて検討する必要があります。
17.任意後見監督人
現行制度では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から任意後見が始まります。
任意後見監督人は、主に次の仕事を担当します。
- 任意後見人の事務を監督する
- 任意後見人から財産管理や支援状況の報告を受ける
- 家庭裁判所へ報告する
- 任意後見人と本人の利益が対立する場合に必要な対応をする
- 任意後見人に不正や不適切な事務がある場合に家庭裁判所へ伝える
任意後見監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることがあります。
任意後見監督人の報酬も、本人の財産から支払われます。任意後見人への報酬を契約で定めている場合には、任意後見人と任意後見監督人の双方に継続的な費用が生じます。
18.日常生活自立支援事業とは
日常生活自立支援事業は、認知症、知的障害、精神障害などにより、福祉サービスの利用手続や日常的な金銭管理に不安がある人を、社会福祉協議会が契約に基づいて支援する事業です。
成年後見制度のように家庭裁判所が支援者を選ぶ制度ではありません。本人と社会福祉協議会が利用契約を結び、支援計画に沿って生活支援員などが訪問します。
主な支援内容
- 福祉サービスに関する情報提供
- 福祉サービスの申込みや契約手続の援助
- 福祉サービス利用料の支払い
- 医療費、家賃、公共料金などの支払い
- 年金や福祉手当の受領に必要な手続
- 日常生活費の払戻し
- 預貯金の出し入れ
- 通帳、印鑑、年金証書、権利証などの預かり
- 定期訪問による生活状況の把握
利用するには、本人が事業内容を理解し、社会福祉協議会と利用契約を結べることが必要です。
判断能力が低下し、本人が契約内容を理解できなくなった場合には、日常生活自立支援事業の契約を継続できないことがあります。その場合は、成年後見制度への移行を検討します。
19.横浜市の日常生活自立支援事業
横浜市では、横浜市社会福祉協議会の横浜生活あんしんセンターと各区社会福祉協議会のあんしんセンターが、「権利擁護事業」として日常生活自立支援事業を実施しています。
相談は無料です。高齢や障害などにより来所が難しい場合には、出張相談にも対応しています。
契約後は、支援計画に基づき、原則として毎月1~2回程度の訪問を受け、福祉サービス利用援助や日常的な金銭管理の支援を受けます。
横浜市における主な利用料
2026年8月2日時点で横浜市社会福祉協議会が案内している、福祉サービス利用援助・定期訪問・金銭管理サービスの1回当たり利用料は次のとおりです。
| 区分 | 1回当たりの利用料 | | ---------------- | -----------------: | | 生活保護受給者 | 0円。ただし支援計画外は1,250円 | | 市民税非課税者 | 1,250円 | | 市民税課税者・所得250万円未満 | 1,560円 | | 市民税課税者・所得250万円以上 | 1,875円 | | 市民税課税者・所得700万円以上 | 2,500円 |
財産関係書類等の預かりサービスは、生活保護受給者が0円、その他の人は月額250円、年額3,000円です。
料金は改定される可能性があります。利用時は横浜生活あんしんセンターの権利擁護事業案内を参照してください。
20.成年後見制度と日常生活自立支援事業の違い
| 比較項目 | 成年後見制度 | 日常生活自立支援事業 | | -------------- | ------------------ | ------------------ | | 実施主体 | 家庭裁判所が選任した後見人等 | 社会福祉協議会 | | 利用方法 | 家庭裁判所への申立て | 本人と社会福祉協議会の契約 | | 判断能力 | 契約判断が難しい人も対象 | 利用契約を理解できることが必要 | | 支援範囲 | 財産管理、契約、相続、不動産など広い | 福祉サービスと日常的な金銭管理が中心 | | 代理権 | 審判内容に応じて持つ | 原則として限定的 | | 取消権 | 類型と審判内容に応じて持つ | ない | | 家庭裁判所の監督 | ある | ない | | 費用 | 申立費用と後見人等報酬 | 訪問等の利用料 | | 重大な財産処分 | 対応できる場合がある | 原則として対象外 | | 本人が契約できなくなった場合 | 制度利用が可能 | 契約終了となる場合がある |
日常生活自立支援事業は、本人が支援内容を理解して契約でき、困りごとが日常的な金銭管理の範囲に収まる場合に適しています。
不動産売却、遺産分割、多額の預金管理、施設入所契約、悪質な契約の取消しなどが必要な場合には、成年後見制度のほうが適する可能性があります。
両制度を単純に「軽い制度」「重い制度」と分けるのではなく、必要な支援と本人の契約能力から選ぶことが大切です。
21.金銭管理でできることとできないこと
成年後見人等は、本人の財産を本人のために管理します。
対応できる主な内容
- 通帳や現金の管理
- 年金の受領
- 家賃、医療費、介護費の支払い
- 税金や保険料の支払い
- 不要な契約の解約
- 保険金や給付金の請求
- 不動産の管理
- 必要に応じた不動産売却
- 相続手続
- 本人の生活に必要な費用の支出
原則として難しい内容
- 本人の財産を親族へ自由に贈与する
- 相続税対策を目的に財産を移す
- 本人の利益にならない投資をする
- 家族の生活費を本人の財産から当然に支払う
- 本人の意思や生活を無視して財産を増やすことだけを優先する
- 本人の財産を成年後見人等の財産と混ぜる
成年後見人等の役割は、財産を最大化することではありません。本人の生活、医療、介護、楽しみ、家族関係などを踏まえ、本人のために財産を使うことが基本です。
22.契約に関する権限
成年後見人等は、権限の範囲内で本人に代わって契約を結ぶことができます。
例えば、介護サービス契約、施設入所契約、賃貸借契約、入院契約などです。
しかし、契約を代理できることと、本人の生活場所や医療内容を一方的に決められることは同じではありません。
施設入所契約を代理できる場合でも、本人の希望や生活歴を踏まえ、在宅生活を続ける方法がないか、別の住居が適切ではないかなどを検討する必要があります。
本人が明確に拒否しているのに、成年後見人等が物理的に本人を施設へ連れて行く権限はありません。強制的な入院や身体拘束についても、それぞれの法律上の要件が必要です。
23.医療同意の限界
成年後見人等は、入院契約、医療費の支払い、医療機関との連絡調整などを担当できます。
しかし、成年後見人等であるという理由だけで、本人に代わってすべての医療行為へ同意できるわけではありません。
特に次のような医療行為について、成年後見人等に包括的な同意権があるとはされていません。
- 手術
- 輸血
- 抗がん剤治療
- 人工呼吸器の装着
- 胃ろう造設
- 透析の開始や中止
- 身体への侵襲を伴う検査
- 延命治療の開始や差控え
- 蘇生処置に関する判断
本人に意思決定能力がある場合は、本人へ分かりやすく説明し、本人が同意または拒否します。
本人の意思決定が難しい場合は、本人が以前表明していた希望、人生観、価値観、家族の話、医療・ケアチームの意見などを踏まえ、本人にとって最も適切な方針を検討します。
成年後見人等は、本人の過去の意思や生活状況を医療機関へ伝え、本人の権利が守られるよう協議に参加できます。しかし、「後見人だから手術同意書に署名する」という単純な取扱いには注意が必要です。
医療機関から同意や署名を依頼された場合は、同意書の内容と署名者の立場を整理し、必要に応じて家庭裁判所や法律専門職へ相談します。
24.身元保証人との違い
成年後見人等は、身元保証人ではありません。
病院や施設がいう「身元保証人」には、複数の役割が含まれていることがあります。
- 入院費や施設利用料の連帯保証
- 緊急連絡先
- 医療方針に関する連絡相手
- 入退院や入退所の手続
- 日用品の準備
- 亡くなった後の遺体や遺品の引取り
- 居室の明渡し
- 未払費用の精算
成年後見人等は、本人の財産から正当な医療費や施設費を支払うことはできます。しかし、本人の債務を自分の財産で支払う連帯保証人になる義務はありません。
また、成年後見人等の職務は原則として本人の死亡によって終了します。一定の緊急事務や財産の引渡しなどを担当する場合はありますが、葬儀、納骨、遺品処分、賃貸住宅の明渡しなど、すべての死後事務を当然に引き受けるものではありません。
病院や施設から身元保証人を依頼された場合は、何を保証する書類なのかを読み、成年後見人等として対応できる範囲を分ける必要があります。
身元保証人がいないことだけを理由として、医療や介護サービスの利用を一律に拒むことが適切とは限りません。本人の財産、成年後見人等の権限、緊急連絡体制、死後事務の準備などを個別に整理します。
25.身寄りのない人への支援
身寄りがない人への支援では、成年後見制度だけですべてを解決することはできません。
主な課題を分けて考える必要があります。
- 日常の金銭管理
- 医療・介護サービスの契約
- 入院や施設入所時の連絡先
- 医療に関する意思決定支援
- 住居の確保
- 緊急時の対応
- 死亡届
- 遺体の引取り
- 葬儀、火葬、納骨
- 賃貸住宅の明渡し
- 遺品整理
- 相続財産の管理
- ペットの世話
成年後見制度は、生前の財産管理と法律行為を中心とする制度です。死後の課題については、遺言、死後事務委任契約、見守り契約、財産管理等委任契約、任意後見契約などを組み合わせる場合があります。
ただし、本人の判断能力がすでに失われている場合、新たに任意後見契約や死後事務委任契約を結ぶことは難しくなります。
身寄りの問題が深刻化する前に、地域包括支援センター、区役所、基幹相談支援センター、社会福祉協議会、法律専門職などへ相談し、将来必要になる役割を整理することが大切です。
26.市区町村長申立て
本人に成年後見制度が必要であっても、本人が申し立てられず、協力する親族もいない場合があります。
また、親族がいても、虐待、財産侵害、長期間の音信不通、申立て拒否、強い対立などにより、親族申立てが期待できない場合があります。
このような場合には、市区町村長が法定後見開始を申し立てる制度があります。
横浜市では、市長ではなく、各区長が申立てを担当します。
区長申立てを検討する主な場面
- 身寄りがない
- 親族と連絡が取れない
- 親族が申立てを拒んでいる
- 親族から虐待を受けている
- 親族による財産侵害が疑われる
- 本人が申立ての意味を理解できない
- 預金を管理する人がいない
- 施設や介護サービスの契約ができない
- 家賃や医療費の滞納が続いている
- 悪質商法の被害が続いている
- 本人の生命、身体、財産を守るため早急な対応が必要である
市区町村長申立ては、「親族が一人もいない人だけ」が対象とは限りません。親族がいても、その親族による申立てが期待できず、本人の権利を守る必要性が高い場合には対象となる可能性があります。
ケアマネジャー、医療機関、介護事業所、相談支援専門員などが必要性に気づいた場合は、本人の住所地を担当する区役所へ相談します。
横浜市では、高齢者については各区役所高齢・障害支援課、障害のある人についても各区の高齢・障害支援課が主な窓口になります。
27.成年後見制度利用支援事業
成年後見制度利用支援事業は、申立費用や成年後見人等への報酬を負担することが難しい人に対し、市区町村が費用の全部または一部を助成する制度です。
全国一律の給付制度ではなく、対象者、所得・資産要件、助成上限、申請期限、対象となる後見人等の範囲は自治体によって異なります。
横浜市では、申立費用については区長申立てを受けた人を対象とする取扱いが案内されています。成年後見人等への報酬についても、負担が困難な人に助成制度があります。
助成は自動的に適用されるものではありません。家庭裁判所の報酬付与審判を受けた後、期限内に区役所へ申請するなどの手続が必要になる場合があります。
本人の収入だけでなく、預貯金、不動産、生活保護受給の有無などが審査対象になることがあります。
制度を利用する場合は、申立て前から各区役所高齢・障害支援課へ相談してください。
28.よこはま成年後見推進センター
横浜市では、横浜市社会福祉協議会の横浜生活あんしんセンター内に「よこはま成年後見推進センター」が設置されています。
同センターは、横浜市における権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核機関として、横浜市と連携し、次のような事業を担当しています。
- 成年後見制度に関する相談
- 制度の広報と普及
- 申立てに関する支援
- 成年後見人等の候補者に関する相談
- 親族後見人への支援
- 市民後見人の養成と活動支援
- 法人後見の推進
- 福祉・法律関係機関との連携
- 日常生活自立支援事業
- 権利擁護に関する専門相談
横浜市の「令和8年度健康福祉局予算概要」にも、成年後見制度の利用促進や権利擁護支援に関する取組が位置付けられています。横浜市「令和8年度健康福祉局予算概要」
相談先
よこはま成年後見推進センター
- 所在地:横浜市中区桜木町1-1 横浜市健康福祉総合センター9階
- 相談専用電話:045-201-2088
- 利用時間:月曜日から金曜日の午前9時から午後5時
- 祝日、年末年始を除く
- 相談料:無料
来所する場合は、事前に連絡しておくと円滑です。よこはま成年後見推進センター
このほか、各区役所高齢・障害支援課、地域包括支援センター、基幹相談支援センター、各区社会福祉協議会のあんしんセンターでも相談できます。