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Poetry of Life|命の詩

第一・二部|森で出会う命

PART 01 / A MORNING WITHOUT A NAME

第一部|まだ名前のない朝

朝露で、緑の靴の先が濡れていた。

savaくんは、森の入口で立ち止まった。
昨夜の雨に倒された草のあいだから、
小さな芽が、光のほうへ首を伸ばしている。

指を添えて起こそうとして、やめた。
柔らかな茎が折れてしまいそうだった。
かわりに、光をふさいでいた落ち葉を一枚、脇へよけた。

それから、しゃがんで待った。

どのくらい経っただろう。
芽の先にあった水の粒が、ころりと落ちた。
ほんの少し、葉がひらいた。

「おはよう」

返事はなかった。
けれど、さっきまで知らなかった誰かが、
同じ朝の中にいる。

savaくんは、その場所を忘れないように、
道のそばの白い石を、そっと覚えた。

PART 02 / THE TREE THAT WAITED

第二部|待っていてくれた木

森の奥に、幹の裂けた古い木があった。
枝は片方だけ低く伸び、
そこだけ、誰かの席のような日陰をつくっていた。

savaくんが腰を下ろすと、
樹皮のしわの奥に、やさしい目が灯った。

「ずいぶん、急いできたんだね」

そう言われて初めて、息が切れていることに気づいた。
早く遠くへ行けば、何か大切なものが見つかる。
そんな気がしていたのだ。

「ここにいても、いいの?」
「そのために、枝を伸ばしておいたんだよ」

木の精霊は、何を探しているのか聞かなかった。
savaくんも、うまく話そうとしなくてよかった。

背中に触れる幹は、思ったより温かかった。
風が通るたび、葉の影が膝の上で揺れた。

出発してから初めて、
savaくんは靴のひもをほどいた。

朝の森で光る新芽と蝶に出会い、胸に手を当てて喜ぶ緑の靴のsavaくん

第三〜五部|悲しみのとなりで

PART 03 / WORDS LEFT UNSPOKEN

第三部|声にならなかった「ありがとう」

小川へ続く道で、風の精霊に出会った。
姿は見えなかったけれど、
一輪だけ揺れる花が、その居場所を教えてくれた。

「何を運んでいるの?」

風は草の穂を渡り、savaくんの頬に触れた。

「言えなかった言葉も、少し」

savaくんは、古い木のことを思い出した。
休ませてもらったのに、
照れくさくて、手を振っただけで出てきてしまった。

「戻ったら、ありがとうって言うんだ」

風は返事のかわりに、小川の水面を光らせた。
向こう岸まで、細い光の道ができた。

savaくんは手のひらをひらいた。
つかまえようとしたときには逃げてしまった風が、
今度は指のあいだを、ゆっくり通り抜けていった。

PART 04 / RAIN IN AN EMPTY PLACE

第四部|空いた場所に降る雨

翌日の帰り道には、雨が降っていた。

あの枝の下へ急いだsavaくんは、
白い切り株のように見える、折れた幹の前で足を止めた。
古い木が、倒れていた。

低く伸びていた枝も、
座ったときに足を置いた根も、覚えている。
それなのに、あの目は、どこにも灯らなかった。

「戻ったよ」

葉から落ちたしずくが、返事のように土を打った。

「まだ、言ってないんだ」

savaくんは幹に両手を当てた。
昨日より冷たい樹皮に、額を寄せた。
言葉を探すほど、喉の奥が痛くなった。

風の精霊も、その夜は何も言わなかった。
ただ、雨が頬に強く当たらないように、
少しだけ向きを変えて吹いていた。

PART 05 / A LIGHT BESIDE SORROW

第五部|悲しみのとなりの灯り

夜になっても、savaくんは動けなかった。

足もとで、光がひとつ点いた。
蛍だった。
少し離れて、もうひとつ。

明るくなった幹のくぼみに、
小さな虫たちが雨を避けて集まっていた。
折れた枝の下では、鳥が羽を休めている。

あの木は、倒れたあとも、
誰かが身を寄せられる場所になっていた。

だからといって、寂しさが消えるわけではなかった。
もう一度あの声を聞きたい気持ちは、
胸の真ん中に、重いまま残っていた。

savaくんは濡れた落ち葉を寄せ、
幹のそばに、小さな乾いた場所をつくった。
鳥が一羽、そこへ降りてきた。

「ここ、空いているよ」

口にしてから気づいた。
その言い方が、あの木に少し似ていることに。

花咲く小川で風の光に包まれ、両手を広げて駆ける緑の靴のsavaくん

第六・七部|やさしさを渡す

PART 06 / ONE BY ONE TO THE STARS

第六部|星の川へ、ひとつずつ

雨が上がると、川に星が映った。

savaくんは岸辺に座り、
古い木に話せなかったことを、ひとつずつ口にした。

「日陰が、涼しかった」
「話さなくても、隣にいてくれた」
「ほんとうは、また会いたかった」

声が震えて、最後の言葉はなかなか出てこなかった。
風は急がせなかった。

「ありがとう」

水面の星が、涙の向こうで大きくにじんだ。
届いたのかどうかは、わからなかった。
それでも、言えずに握りしめていた手を、
ようやくひらくことができた。

帰る前に、小さな葉を一枚、川へ浮かべた。
葉は岸辺でくるりと回り、
やがて、星のあいだをゆっくり流れていった。

savaくんは、見えなくなるまで見送った。

PART 07 / SHADE FOR SOMEONE ELSE

第七部|あなたのための木陰

森の入口へ戻ると、白い石があった。
そのそばに、朝の小さな芽が立っていた。

大きくなっていたわけではない。
けれど、雨のあとも、そこにいた。

savaくんがしゃがむと、
道の向こうから、疲れた小鳥が歩いてきた。
片方の羽をかばい、何度も足を止めている。

どうしてそうなったのか、すぐには聞かなかった。
手で日陰をつくり、そのそばに座った。

「急がなくていいよ」

小鳥はしばらくこちらを見てから、
指の影に、そっと身を寄せた。

胸の奥が痛んだ。
同じ場所が、少し温かくもなった。

あの木の声を、もう一度聞くことはできない。
けれど、あの木のそばでもらった時間を、
今度は自分が、誰かに渡すことができる。

日が傾くたび、savaくんは手の位置を少しずつ変えた。
小鳥が眠りにつくまで、そうしていた。

足もとでは、まだ名前のない芽が、
ふたりといっしょに、風に揺れていた。

その日の森には、
小さな木陰が、ひとつ増えていた。

受け取ったやさしさは、次の誰かを照らす光になる。
出会いも、別れも、胸にそっと抱きながら。
今日できる小さな思いやりを、明日へ手渡していく。

夕日の川で星へ昇る命の光を森の仲間と見送る緑の靴のsavaくん